D2 – 6. マーケティング

マーケティングの最終目的は、決められたスケジュール・予算の中で適切なレベルの利益を達成すること。

1. マーケティング目標の設定

目標は、個人の直感や夢・願望を起源とする場合もあり、重要なことはその実現可能性である。

できるだけ具体的な目標を設定し、その実現可能性を調査と分析によって明らかにする必要がある。

SWOT分析

目標の実現可能性を分析するためのフレームワークとして、SWOT分析がある。

プラス要素マイナス要素
内的要因Strengths:強みWeaknesses:弱み
外的要因Opportunities:機会Threats:脅威
SWOT分析

内的要因:強みと弱み

外的要因:機会と脅威

外部のビジネス環境を考えるときは、PESTELで分析する。

分野影響内容
Politics消費を抑制するための禁酒法・税の導入
優れた商品への助成金などのプロモーション支援
Economic為替による輸出品の価格競争力の向上
為替による輸入機器・資材の購入コスト増
Social親世代が好んでいた酒類の回避
地方の労働力不足
Technological新しい生産技術・設備・分析機器による品質向上
地域の独自スタイルの喪失
Environmental±気候変動による影響(スタイルが確立している地域では脅威、冷涼エリアでは機会)
Legal生産規定による、製品のブランディング強化
生産規定による、生産者の選択肢の制限
PESTELによる外的要因の例

これらの分析の結果、最終的に目標達成の可能性に対する結論を出す。

2. 対象とする製品・ブランドの特定

プロダクトにはライフサイクルがあり、対象とする製品の状態によって達成するべきマーケティング戦略が異なる。

  • Introduction:認知度や評判を高める
  • Growth:強い成長を促すために、より広範なターゲットに認知を広げる
  • Maturity or Stabilisation:他の競合製品との違いを強調する
  • Decline:ライフサイクルと延長するために、製品の改良、パッケージの更新、価格の引き下げなどを行う

ブランドの構成要素

Substance
本質
常に同じレベルの品質とスタイルを提供する(ヴィンテージによる変動が少ない)
Consumer Trust
信頼
一貫性があることでブランドへの信頼感が高まる(スーパーマーケットの自社ブランドワインが成功するための重要な要素)
Consumer Engagement
エンゲージメント
消費者自身がブランドとの関係を保ち、By Nameで求め、周囲に拡散してくれる(ラベルなどのわずかな変更がロイヤルカスタマーを遠ざけるリスクを持つ)
Brand Story
ストーリー
成功するブランドには、消費者が共感する「ストーリー」がある(ワインは比較的ストーリーを語りやすい製品であり、消費者もストーリーの一部になる)
Price Premium
価格プレミアム
成功しているブランドは、他のジェネリック製品よりも高い価格で販売され、価格の高さも品質の保証とみなされている
Longeviry
長寿命
主要ブランドは、長い歴史を持ち、長く存続する
Strong Brand Name
強力なブランド名
どの言語でも、覚えやすい名前で特徴的なロゴマークを持つことが望ましい(地理的な特徴を持つ名前や、創業者の名前が好まれる傾向にあり、商標登録によって保護することが重要)
Brand Position
ポジション
ブランドが市場の中でどこに位置するかを意識し、競争の激しい価格帯を避けることが望ましい(ただし、安価な市場には大量販売のチャンスがある)
Private Label
プライベート・ラベル
Supermarkets、Deep Discountersではオリジナルのラベルを持つことも重要
ブランドの構成要素

また、次のようなブランディングのやり方がある。

  • Ladder Brand
    • Bourgogneのように、同一ブランドで消費者に分かりやすい段を付ける
      • Accessible:最も安価で購入頻度が多い(e.g. Bourgogne Rouge)
      • Stretch:手頃だが、特別な時に購入する(e.g. Gevrey-Chambertin)
      • Aspiration:ブランドの最高級ワインで、購入することはほとんどない(e.g. Chambertin)
    • プラス要素
      • トップラインは、そのスーパープレミアムの価値を梯子全体に投げかける効果がある
    • マイナス要素
      • ワインの知識・関与度の低い消費者とは相性が悪い傾向がある
      • 安価なワインの印象がブランド全体の印象になる場合がある
  • Soft Brand
    • 商品を優先して購入する手掛かりになる情報(原産国、産地などの地理的指標、ブドウの品種、ワインのスタイル)
  • Luxury Brand
    • ワインそのものの品質に限らず、高級イベントのスポンサーになる、高級小売店・レストランのリストに載るなど、あらゆる手段で高級感をアピールする

3. ターゲット市場の特定

製品がどのような消費者を対象としているかを特定し、そのターゲット層の要望やニーズを知る必要がある。

1. セグメンテーション

市場を特定の軸で分類し、セグメントに分割する。

セグメントの軸
地理的変数居住地(国、地域、都市部・農村部など)
人口統計学的変数年齢、性別、家族構成、収入、教育水準など
サイコグラフィック変数ライフスタイル(健康志向、外食好きなど)、パーソナリティ、価値観や信念(ベジタリアン、オーガニック志向)、興味など
行動変数・ワインに求めるベネフィット(コストパフォーマンス、プレミアムワイン)
・ワインの購入場所、頻度、量
・ワインへの関心度
セグメンテーションの軸

消費者のセグメンテーションに決まったモデルはなく、初期のモデルとしてワイン消費者を3グループに分類する試みがある。

  1. ワイン愛好家:ワインへ大きな関心と深い知識を持っている、高収入・高学歴の人
  2. ワインに関心のある人:ワインに関心があり、適度な知識を保有している中程度以上の学歴と収入がある
  3. ワインに興味がある人:ワインに中程度の関心はあるが知識は限られており、中程度の教育と収入がある人

2. 市場調査

市場調査は、特定のセグメントの消費者が何を必要としているかを理解すること。

市場調査を行うときには、次のことを明らかにしておく必要がある。

  1. 得たい情報は何か(あるセグメントが、特定のワインにどのくらいの価格を支払うか)
  2. 誰から情報を集めるか(特定のセグメントか、一般的な情報か)
  3. どのように調査を行うか
    1. セカンダリーリサーチ:公開データ、市場調査会社のレポートを元に分析を行う方法
    2. アンケート調査:大勢の人から、一定の質問を通して情報を集める方法
    3. フォーカスグループ:少数人グループを集め、議論やコメントによって意見を集める方法
    4. インタビュー:1対1、もしくは少人数で話すことで、深く意見を引き出す方法
    5. 消費者の行動観察:実際の売り場などで、ターゲットとなる消費者の行動を観察・分析する方法

4. マーケティング戦略の方針設定

マーケティングを行う際は、5つの軸で方針を決める必要がある。

  1. マーケティング戦略の方向性
    1. マス向け(差別化されていない):ターゲットは市場全体
    2. ニッチ:特定のセグメントに向けた製品で、ワインは多くの場合ニッチ製品である
    3. 複数:1つの製品、または複数の製品で多数のセグメントに訴求する
  2. マーケティング戦略の狙い
    • 新製品の発売
    • 既存製品の改善
    • 売り上げの拡大
    • マーケットシェアの拡大
    • ブランド認知度の向上
    • 新しい消費者の獲得 など
  3. 達成すべき目標数値(利益、売上金額、売上本数、市場シェアなど)
  4. 目標達成までの期間
  5. マーケティングの予算

5. マーケティング戦略の立案

具体的にマーケティング戦略を立案する際には、5Pでそれぞれの要素を検討する。(ProcessとPhysical Evidenceはサービスにおける要素であるため、ここでは取り上げない)

  1. Product:製品
  2. Price:価格
  3. People / Person:人
  4. Place:場所
  5. Promotion:販売促進

① Product:製品

パッケージ・ブランディングを含む、ワインそのもの。

ワイン市場はしばしば「飽和状態」と表現されるため、競合他社の製品とどのように違うかを明確に説明する必要がある。

そのため、製品のプレゼンテーションであるボトルやラベル、その他のパッケージは、ターゲットとなる消費者にアピールするようにデザインされる必要がある。

② Price:価格

配送料などを含む、消費者が商品に対して支払うトータル金額のこと。

また、消費者がワインを購入するために費やす、時間や労力などのコストも含まれる。

消費者が購入の意思決定を行う際に、価格は強い影響力を持つため、他社の類似製品よりも低い価格設定で、急速に市場に普及させる「浸透戦略」は有効である。ただし、製品の価格を上げたときに、継続的に購入してもらうことは容易ではない。

③ People / Person:人

人には2つの解釈があり、どちらも重要である。

  1. ターゲット
    • ターゲットとする消費者の性質や行動
  2. スタッフ・パートナー・顧客
    • Cellar Doorやイベント販売の場合:スタッフへ十分な知識とサービスのトレーニングを行う必要がある
    • 小売販売の場合:Distributorsや小売店に、生産者のイメージやビジョンを共有することが重要(パンフレットや動画、Webサイトの制作など)

④ Place:場所

どこでワインを販売するかは、ターゲットとする消費者によって変わる。

消費者のワインへの関心購入する場所求めるワイン
高いワインの専門店
・プレミアムなスーパーマーケット
Deep Discounters
・プレミアムワイン
・あまり知られていない地域やブドウ品種
低いスーパーマーケット・安価から中価格帯のワイン
・よく知られた産地やブドウ品種
ワインを購入する場所

また、国や地域におけるワイン市場の成熟度によっても、販売するワインや流通ルートは変わる。

市場の成熟度状態対象国
成熟市場ワインのポテンシャルが十分に発揮されていないと思われる市場。ワインの販売数量が安定しているか減少している。ドイツ、フランス、イギリス
定着した市場歴史的に強い成長を遂げてきたが、その成長が鈍化している市場。イタリア、南アフリカ
成長市場ワインが主流の商品であり、かつ成長している市場。アメリカ、カナダ、ブラジル
新興市場比較的低いベースから成長し、ポテンシャルを発揮している市場。中国、ロシア、トルコ
新たな新興市場ワインはまだ比較的新しく、知られていない飲料であるが、何らかの可能性を秘めている市場。インド、マレーシア、フィリピン
市場の成熟度

⑤ Promotion:販売促進

Promotionには、ワインを販売する際に行うものと、広告のように販売時以外で行うプロモーションがある。

いずれも、アルコール販売に関わるプロモーションは国によって規制があるため、実施にあたっては注意が必要である。

1. 販売時点のプロモーション

販売時に行うプロモーションの種類と特徴

#プロモーション特徴大量生産ワインプレミアムワイン
1Price Promotion
価格訴求
➕ 消費者の購入意思決定に価格は大きな影響力を持つため、値下げは一般的に行われるプロモーションである
➖ ただし、商品のイメージを損なったり、顧客ロイヤリティを高めることができないリスクがあるため慎重に行う必要がある
×
2Competitions
懸賞
➕ 特定商品の購入を促すことができる
➕ 懸賞への応募で、連絡先などを入手することができ、継続的なプロモーションに利用することができる
×
3Limited Edition Packaging
限定版パッケージ
➕ ブランドのイメージアップにつながる
➖ 長期的な売上向上にはならない
4Consumer Tastings
テイスティング
➕ 試飲を提供することで売上が増加する
➕ 将来的にもそのワインを購入する可能性が高くなる
××
5Staff Incentives
インセンティブ付与
➕ スタッフの販売意欲が高まることで、売上が伸びる可能性がある
※ 中国では違法(贈収賄、不正競争とみなされる)
×
6Staff Training
トレーニング
➕ スタッフが自身と熱意を持って製品を販売することが可能になり、売上が伸びる可能性がある×
販売時のプロモーションの種類
Price Promotionの例

多くの市場において、小売店では定期的になんらかの価格プロモーションが行われており、その目的は次のようなものである。

  • 既存商品の売上拡大
  • 新商品の大量販売・認知拡大
  • 新規顧客の獲得
  • 商品の入れ替えのため(古い在庫や生産中止商品の売り切り)

実際の価格プロモーションでは、次のようなやり方がある。

#プロモーション方法特徴
1特定商品の割引・特定商品の在庫整理
2特定の日や季節ごとのセール・閑散とする平日の販売促進
・クリスマスなどの販売促進
3特定グループに対する割引・学生、軍人など
4マルチバイ、ボリュームディスカウント・BOGOF(Buy One Get One Free)
・アルコールの過剰摂取を助長すると考えられ、スウェーデンやスコットランドなど一部の国では禁止されている
5Link-saves
リンクセーブ
・ある商品の購入や、一定量の注文に対して別のカテゴリーの商品を割引する方法
e.g. あるワインを注文した場合に料理が割引になる、ボトル6本以上の注文で配送料無料など
価格プロモーションの種類

2. 販売時以外のプロモーション

#プロモーション特徴大量生産ワインプレミアムワイン
1Advertising
広告
➕ 大規模かつ多様な消費者に対して製品の宣伝をするための非常に強力なツール
➖ チャネルによって違いはあるが、費用が高額になる可能性がある(ワインや食品のプレス広告が適している)
2Social Mediaℹ️ 従来の広告と異なり、消費者との対話が重要である(宣伝のためだけの利用では、フォロワーが遠ざかる傾向がある)
± 誰もが自分の経験を他の人と簡単に共有することができる
± ピアレビューは、ワイン購入の意思決定おいて重要性が増している
➖ ネガティブな評判やレビューにつながる可能性がある
×
3Web Site & Smartphone Appsℹ️ 前提として、魅力的で操作しやすいサイト作りと維持が必須である
ℹ️ 検索結果の上位に表示されるようにSEO対策が必要である
➕ 生産者は世界中の多くの人とコミュニケーションを行うことができる
➖ コンサルタントやITの専門家を雇う場合はコストがかかる
4Reviews & Awards
レビューと受賞
➕ 評価の高い評論家による好意的なレビューや高得点は、ワインの売上を大きく伸ばすことができる
➕ 受賞やメダルを獲得した場合、プロモーション資料や販売時に使用することができる
➕ 特に関与度や知識が低い商品者の購入意思決定に大きな影響を与える
➖ コンクールへのワインの参加、ボトルの提供にはコストがかかる(が、多くの生産者は価値のある費用だと考えている)
5Public Relations
PR
ℹ️ PRの目的は消費者に企業の好ましいイメージを植え付けること
ℹ️ ブランド・アンバサダーは成功手法の1つ(中国では、キー・オピニオン・リーダーの起用が成功している)
➕ 社会的・企業的責任に関する方針は、多くの消費者に好ましいイメージを与える
6Sponsorship
スポンサー
ℹ️ 多くのスポーツイベントや文化イベントは、スポンサーシップ契約によって経済的に支えられている
➕ ターゲットが一致している場合、ブランディングと広告としての効果がある
➖ 特にスポーツ分野では、健康増進の活動とアルコールを結びつけることへの適切性が疑問視されている
×
7Wine Tourism
ワインツーリズム
ℹ️ 訪問者が収穫や醸造に参加できる、体験イベントを提供しているワイナリーもある
ℹ️ ワインの生産者だけでなく、ツアー会社・レストラン・ホテルなど地域の観光業者を巻き込んだワインツーリズムが成功している
➕ 一般消費者との交流の機会が増える
➕ 生産者を訪れた人は、一般的に常連客になり、そのワインを周りの人にも勧めてくれる可能性が高い
➖ インフラ整備に多大な費用がかかり、運営・維持にも費用がかかる
×
8Events & Festivals
イベント・フェスタ
➕ 幅広い層の消費者を惹きつけることができるため、新規顧客を獲得する機会となる
➖ 出展料やブース運営のための旅費・スタッフ費用などのコストが発生する
➖ 運営方法によっては、テイスティングではなく飲み放題のようなイベントになってしまう可能性がある
×
9Free Merchandise
無料商品
ℹ️ ワイングッズや直接的には関係ない販促グッズを提供する
➕ 消費者のロイヤリティが高まることで、将来的なワインの売上につながる
➕ 周囲の人のブランド認知が高まり、間接的な販売促進につながる
×
販売時以外のプロモーションの種類
広告の種類と特徴
#広告の種類特徴
1TV・映画➕ 最も強力な広告キャンペーンで、多くの人にアピールすることができる
➖ 非常に高額な費用がかかる
2ラジオ➕ マーケティング予算を抑えた広告が可能
➖ 画像がないため、印象に残りにくい
3プレス広告ℹ️ 適切な媒体に広告を掲載することが重要
ℹ️ 著名なライターに記事を書いてもらうことで効果を高める手法もある(advertorials)
➕ 詳細なストーリーを伝えるのに非常に効果的
➕ 低コスト
4ビルボード➖ 看板広告で、ほとんどの人はあまり長い時間目にしないため、効果は限られている
5デジタル広告➕ 掲載された数と広告費用が連動するため、効果計測を行いやすい
➕ 比較的低コストでマーケティングを行うことができる
Advertisingの種類

6. マーケティング戦略の実行とモニタリング

戦略を策定した後は、実際にマーケティングを行いながら、望む効果が得られているかをモニタリングする。望む結果が得られていない場合、戦略や目標の変更、マーケティングの中止、製品の販売中止などの判断を行う必要がある。

マーケティングの効果を測る方法には、目標としている数値のモニタリングの他、消費者の反応を把握する調査がある。(マーケティング・リサーチ)

  • フォーカスグループを作り、直接フィードバックを求める
  • アイ・トラッキング
  • バイラルマーケティング調査

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