スパークリングワインに適した環境・醸造におけるオプションは、スティルワインとは異なる点がある。
ここでは、スパークリングワインを醸造する際に、標準的に選択するオプションを整理する。
もくじ
1. スパークリングワインの醸造
1. ブドウ栽培
高品質なスパークリングワインに必要となる、ブドウの品質は次の通り。
- 高い酸を保有している(中程度 (+) 〜 高い)
- 潜在アルコール度数が低い(9 〜 11%)
→ 多くのスパークリングワインで行われる二次発酵で1 〜 2%のアルコールが加わるため - 果実味の強さが抑えられている
そのため、ブドウが酸を保持したままゆっくりと成熟する、冷涼な気候がスパークリングワインに適した気候である。通常スティルワイン用のブドウが栽培されないエリアでもスパークリング用のブドウ栽培を行うことがある。
冷涼な気候が得られる地域には、3つまたは複合した要素がある。
- 緯度の高い地域(England, Tasmaniaなど)
- 海岸に近い場所(Sonoma Coastなど)
- 標高の高い場所(Torentoなど)
また、スパークリングワインに求められる品質(高い酸、低い潜在アルコール度数、繊細な風味)は高い収量によって得ることができる。スティルワインより早い時期にブドウを収穫できること、生産量を最大かできることは生産者にとってメリットである。
| オプション | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 早詰み | ・カビ病のリスクが軽減 | 未熟な風味 |
| 手摘み | ・収穫時の選果で病気のブドウを排除することができる ・果実の破砕を最小限に抑えられる | ・収穫に時間がかかる(希望する熟度で収穫できない可能性がある) ・労働コストがかかる |
一方で、生産者は清潔で健康な果実を得ることに注意を払う必要がある。
- 病気の果実から発生する異質な風味は、発泡によって強調される
- ボトリティス菌に感染したブドウが放出するラッカーゼという酵素は、深刻な酸化を引き起こす可能性がある
2. ブドウ品種
プレミアムのスパークリングワイン作りに、最も多く使われる品種はChardonnayとPinot Noirである。
| Chardonnay | Pinot Noir | |
|---|---|---|
| 香り | ・リンゴや柑橘系のアロマ ・澱熟成によるビスケット | |
| 酸 | 中程度(+)〜高い | 高い |
| アルコール | 低い | |
| メリット | ・冷涼な環境でフレーバーが早く熟す ・良年には高い収量 | ・早熟なため冷涼な気候に適している ・ブレンドにボディを与える |
| デメリット | ・発芽が早い(春の霜に弱い) ・Coulure(花振い)、Millerandage(結実不良)にかかりやすい ・収穫前のボトリティスによる腐敗 | ・発芽が早い ・皮が薄く、病気にかかりやすい(べと病、うどんこ病、ボトリティスによる腐敗、リーフロール) |
世界では、この他にも多くのブドウ品種からスパークリングワインが造られているが、ワインのスタイルに影響を与える要素は次のようなものがある。
- アロマの強さ(ニュートラルで果実の香りが抑えられる品種が好ましいが、アロマティック品種を使う地域もある)
- 高い酸を保持する能力
- ベースワインとオートリシスの相性
3. ワインの醸造
1. プレス
プレミアムワインでは、全房プレス(ホールバンチ・プレス)が用いられることが多く、PDOで規程されているケースも多い。
- メリットは、最も穏やかな圧搾方式であること(フェノール類の抽出が少なく、デリケートは果汁が抽出できる)
- デメリットは、プレス機に1度に投入できる房の数が少ないため、プロセスに時間がかかること
全房プレス以外では、同様に優しくプレスすることができる空気圧式とバスケット式のプレス機がある。
果汁にはフリーラン果汁とプレス果汁があり、プレス果汁はフェノール・固形分・pHが高く、熟成期間が短くなるため早飲み用のワインに使われる。
果汁は一次発酵前に清澄され、タンニンや色が過剰な場合はこの段階で調整される。
2. 一次発酵
①一次発酵
一次発酵は確実に健全に行う必要があり、一般的には次のような方法で行われる。
- 14〜20℃で行う
- 果実の風味を保つため
- 酵母にとって冷たすぎる環境と、pHが低い環境はストレスである
- ステンレススチールのタンクで行う
- 温度管理を行いながら大量に発酵することができる
- 発酵前後のタンクの洗浄が容易である
- 一次発酵・二次発酵に対応できる培養酵母を使用する(一般的に「Prise de mousse (EC1118)」を使用)
- 一次発酵の酵母に必要な条件
- 強酸性・低いpHの条件でも確実に発酵できる培母
- 二次発酵に備えて、完全にアルコール発酵されたワインが必要である
- 顕著な第1アロマはこのまれないため、ニュートラルな酵母が望ましい
- 強酸性・低いpHの条件でも確実に発酵できる培母
- 二次発酵の酵母に必要な条件
- 高いアルコール度数・pHが低い状態で発酵を開始することができる
- 低温・高圧・栄養分が少ない状態でも発酵を続けることができる
- 一次発酵の酵母に必要な条件
②マロラクティック発酵
マロラクティック発酵を行うかどうかは、産地や生産者の目指すスタイルによって選択が異なる。マロラクティック発酵は次の目的で行われる。
- ワインの酸味を抑える
- テクスチャーを高める(ただし、白ワインに見られるバターのような香りは見られない。これは、ジアセチルが二次発酵中に酵母によって代謝されるためである。)
- 二次発酵中の意図しないマロラクティック発酵のリスクを回避する(ろ過によって無菌状態にする選択肢もある)
③ベースワインの熟成
ワインメーカーによっては、ベースワインをオーク樽で熟成することがある。ただし、オークのフレーバー(バニラ、トースト、スパイス)は二次発酵によって増幅されるため、新樽はごくわずかな割合しか行われない。
3. ブレンド(アッサンブラージュ)
スパークリングワインの醸造では、4つのブレンドを行うことがある。
- 異なるブドウ畑
- ブドウ品種
- ヴィンテージ
- 異なる醸造方法
ブレンドの目的は次の通りである。
| バランス調整 | 品種の特徴、または畑による違いの添加(e.g. PNや暖かい畑のボディ) |
| 一貫性の維持 | ヴィンテージをブレンドすることで、毎年の製品の一貫性を維持する |
| 目的のスタイル | 早飲みスタイル・長期熟成可能なスタイルなど、それぞれの生産者が求めるスタイルを実現するため |
| ロゼワインの生産 | ロゼワインを作るための赤ワインと白ワインのブレンド(PDOによっては認められていない) |
| 複雑性の補完 | 品種、畑、ヴィンテージや一部に樽熟成のワインをブレンドすることで香りや味わいに複雑性がもたらされる |
| 欠陥の最小化 | 一部のワインに欠陥があった場合でも、大量の健全なワインとブレンドすることで欠陥の露出が小さくなる |
| 生産量の補填 | 特定エリアのブドウ畑の面積が少ない場合に、ブレンドによって補填することができる |
| 価格の調整 | 高価なブドウと安価なブドウをブレンドすることで価格調整が可能(e.g. ChampagneにおけるMeunierのブレンド) |
このような目的でブレンドしたワインは、清澄した後に二次発酵を行う。
4. 二次発酵
二次発酵には
| # | 製法 | 概要 |
|---|---|---|
| A | 瓶内二次発酵 | 伝統的な製法で、販売するワインと同じボトルで二次発酵を行う方法 |
| B | トランスファー方式 | 瓶内二次発酵のコストを抑えながら、オートリシスの香りを維持する方法 |
| C | アンセストラル方式 | 原始的な製法で、Pétillant naturelの略称Pet Natとして世界中の小規模生産者で復活 |
| D | タンク方式 | シャルマ方式とも呼ばれ、安価なスパークリングワインの製造に使用する方法 |
| E | 炭酸ガス注入法 | 最も簡易的な製法で、低圧・安価なワインの製造方法 |
A. 瓶内二次発酵
販売するワインと同じボトルの中で二次発酵を行う伝統的な方法。

A-4. 二次発酵
二次発酵を行うために、ベースワインに「liqueur de tirage」を加える。「liqueur de tirage」はワイン、マスト、砂糖、培養酵母、酵母の栄養分、ベントナイト、アルギン酸などの清澄剤の混合物。
1リットルあたり24gのショ糖
↓
1.5%のアルコールとCO2(6気圧に相当)
二次発酵は次の環境下で行われる。
- アルコール度数9.5〜11%、温度16℃前後、pH3以下のワインで発酵開始
- ボトルは「sur latte」で保存(10〜12℃の温度でボトルを水平に寝かした状態)
- 発酵は4〜6週間続く
A-5. 澱熟成
発酵が終わると、酵母を残した状態でまま熟成が行われる。熟成期間はPDOによって規程されていて、15ヶ月を超えると自己分解の影響が見られるようになる。澱熟成がもたらす利点は次の通り。
- 死んだ酵母の細胞を酵素で分解するオートリシスによって、ビスケットのような複雑さをもたらす化合物が生成される
- オートリシスは4〜5年続き、長い場合は10年続く
- 酵母細胞には抗酸化作用があるため、オートリシスが終わってからも澱の上に置いておくことにはメリットがある(しかし、この期間が長いほど排出後のワインの変化は早くなる。そのため、リリース後すぐに飲むことが望ましい。)
A-6. 瓶詰め(Riddling → Degorgement → liqueur d’expédition)
熟成が終わると、澱を除去するために動瓶:Riddling、澱抜き:Dégorgement、瓶詰め:liqueur d’expéditionを行う。
①動瓶:Riddling
熟成が終わったワインは、澱を瓶口に集めるために動瓶が行われる。澱の集積は瓶を逆さにして、回転させながら揺り動かすことで行われる。
- 手動(pupitres):8週間
- 自動(gyropalettes):3〜4日
すぐに澱抜きを行わない場合は、「sur pointe」と呼ばれる逆さの状態で保存する容器で保管する。
②澱抜き:Dégorgement
澱抜きは、ワインと圧力の損失を最小限に抑えながら行う必要があり、現代では自動化されている。
- ボトルを約7℃に冷却する(Co2の溶解度が高くなり、ワインの噴出が少なくなる)
- ネック部分を凍結した塩水に浸す(酵母の沈殿物が凍結し、抽出が容易になるとともに沈殿物の落下を防止できる)
- ボトルを直立させる
- クラウンキャップを外し、ボトル内の圧力でイースとプラグを排出する
③瓶詰め:liqueur d’expédition
瓶詰めする前に「liqueur d’expédition」を加える。liqueur d’expéditionはワインと糖分(Dosage)、またはRCGM(Rectified Concentrated Grape Must:濃縮ブドウ果汁)の混合物で、次のようなメリットがある。
- 酸味とのバランスが取れる(長期熟成で酸味は丸みを帯びるため、特に若いワインにおいてはいくらか必要)
- 酵母の自己消化中に生成された化合物とメイラード反応が発生し、ローストやトーストしたバニラのアロマが発生する
B. トランスファー方式
元々、手作業による動瓶のコストを回避するために開発された方法だが、動瓶と澱抜きの自動化が可能になったことでメリットは薄くなった。
しかし、動瓶が必要ないことによるコストと時間の削減は依然としてメリットである。Champagneでも動瓶が困難な375ml以下、または3,000ml以上のボトルではトランスファー方式が認められている。
トランスファー方式の製法は次の通り。
- 二次発酵までは伝統的手法と同じで、ボトル内で行われる
- 動瓶を行わないため、liqueur de tirageに清澄剤は添加する必要がない
- 熟成したワインは0℃に冷却された状態で、加圧されたレシーブタンクに排出される
- DosageとSO2が添加された後に、ろ過されて瓶詰めされる
C. アンセストラル方式
一部を発酵させたマストをボトルに入れることで、一次発酵でスパークリングを製造する方法。
- 部分的に発酵させたマストの糖度を計測することで、最終的な圧力レベルを推定することができる
- ボトル内に死んだ酵母の沈殿物が堆積するが、除去するかどうかはワイナリーの判断である
- ボトリング後に関与することができないため、結果は様々である
- Dosageは基本的に行わないが、数ヶ月後には栄養不足により酵母が生存できなくなるため、一般的に最終的に糖度が残る
D. タンク方式
タンク方式では、動瓶・デゴルジュマン・二次発酵による長期間の澱熟成が必要ないため、低コストで安価なワインを大量生産することができる。
- 第1アロマを重視するため、アロマティック品種も使用される
- 一次発酵は16〜18℃で行う(新鮮な花や果実のアロマを保つため)
- 二次発酵は砂糖と酵母を加えて、加圧タンクで最短1ヶ月で行う(長期間、澱と接触させることもあるが、加圧タンクは高価であるため経済的なメリットが薄まる)
- ワインは目的の圧力と糖度に達した時点で、2〜4℃に冷却され発酵が停止される
Asti方式
タンク式のバリエーションの1つで、1回の発酵でスパークリングを製造する方法。
- 糖分はTirageではなく、オリジナルのマストによってもたらされる
- 発酵の初期段階では、CO2はバルブから排出される
- 糖度と圧力レベルを計測し、発酵の途中でバブルが閉じられ、その後はCO2が保持される
- 希望する糖度と圧力に達した時点で、ワインを急速に冷やして発酵を止める
- 加圧状態でろ過して酵母を除去し、瓶詰めする
E. 炭酸ガス注入方式
加圧している状態で、二酸化タンを注入する方法。
ベースワインのアロマとフレーバーの特徴をそのまま残すことができる一方で、欠陥もそのまま強調されるため、ベースワインの品質が重要。
2. 甘さの表記・泡の状態など
1. 甘さに関する表示条件
EUでは残糖度と表記の規定を定めており、EU以外の諸国でもこのルールに則った表記を行う地域が多い。
| 主要な表記 | 残糖度 | 産地別の表記 |
|---|---|---|
| Brut Nature | 0〜3g | Bruto Natural / Naturherb / Zeto Dosage |
| Extra Brut | 0〜6g | Extra Bruto / Extra Herb |
| Brut | 0〜12g | Bruto / Herb |
| Extra-Sec | 12〜17g | Extra-Dry / Extra Trocken |
| Sec | 17〜32g | Secco / Dry / Trocken |
| Demi-Sec | 32〜50g | Semi-Seco / Medium-Dry / Abboccato / Halbtrocken |
| Doux | 50+ g | Dolce / Sweet / Mild |
2. 泡の状態
泡の大きさや、状態・形成には多くの変数があるため、WSETでは大きく言及しない。
- ブドウの糖度(潜在アルコール度数)
- CO2がワインに溶解する能力(ブドウの品種、健康状態、糖度など多くの要素によって左右される)
- 澱熟成の期間(長いほど、CO2は失われるが泡は長持ちする)
- デゴルジュマンの処理方法(CO2の損失の程度)
- グラスの大きさや形、洗浄状態、ワインの温度など
3. 封の仕方
スパークリングワインは、一般的にコルクを使用するのが一般的。
- ボトルネックの内径18〜21mmに対して、コルクの直径は31mmであるため、コルクは圧縮された状態であるため「マッシュルーム」のような形状になる
- 一般的に、コルクは2枚の天然コルクを接着したAgglomerate Cork(圧搾コルク)が使用される
3. スパークリングワインの産地
WSETで取り扱うスパークリングワインの産地は、以下にリストアップする通りであり、それぞれの産地の特徴や規定はリンク先にまとめる。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1OatVjw4iwpoZMILVcP7nLvU70Ue1KTBkCyKH6_SQZPs/edit?usp=sharing
- フランス
- Champagne
- Crémant d’Alsace
- Crémant de Bourgogne
- Crémant de Loire
- Saumur Mousseux
- Vouvray Mousseux
- スペイン(Cava)
- イタリア
- Prosecco
- Asti
- Lambrusco
- Franciacorta
- Trento
- ドイツ
- Sekt
- Perlwein
- イングランド&ウェールズ
- アメリカ
- チリ
- アルゼンチン
- 南アメリカ
- オーストラリア
- ニュージーランド
※ここに記載している内容は、WSET D4テキストの内容をベースにしていますが、内容の正しさを保証するものではありません